鵠沼の家づくり

遠目近目佇まい

 曇り空の中、江ノ電に乗って鵠沼へ。鵠沼の家の打合せに伺います。

たまたま訪ねる時に雨が降ることが多く「雨男」のように思われていますが、季節は梅雨。

しかも台風と梅雨前線が近いというのに、曇り空です!!「雨男」ではないです!!

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 江ノ電の線路沿い、大きなお宅があったのですが、無残にも敷地分割。

櫛割りに五分割。お庭や木々の面影は消え去って、分譲されています。

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 そのおかげ、と言っていいのかどうかですが、鵠沼の家の姿がはっきり見えます。

片流れの屋根のラインがきれい(自画自賛)で、いい佇まいになりました。

無塗装の米桧の破風がいい色合いになってきます。

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 二寸勾配でゆったりと登る片流れ。この勾配にして正解だったようです。

わずか六坪の佇まい。屋根は大きく大らかに暮らしを守るものだから。

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 時間をかけて丁寧に植えられた花々や小ぶりの木々。

すこしずつ緑が増えて人の住まいらしさが増していきます。

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 この家を訪れた方々が、みなさん口をそろえて「空が大きい」と言われる。

小さな平屋のおかげで、空がひろがった鵠沼の家づくり。

これからも続きます。

住まい設計の結果

 思えば遠くへ来たもんだ、歌の文句じゃないけれど、よく出来ました。

設計の仕事をやっていて良かったと思う時は、人様の家が自分の家のように馴染んで見え、

クライアントに気に入っていただけたと、言葉をもらうことです。

Plan

 紙の上の設計が紆余曲折の過程を経ると、現場はすんなりと建ち上がるもの。

もちろん秀でた棟梁の存在があればこそですが、懸命に書いた図面を読み取ってもらえる、

それがわたしたちにはとてもうれしくてシアワセなことです。

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 繊細な線の意味を読み取ることの出来る職人さんは少ない。

まして図面よりよくなることがままあります。もちろん言いたいことは言って聞いてもらうし、

軽口が出るようになれば、よい仕上がりは目に見えています。

Elevation

 六坪の住まい。家はこれでいいのだ。と、教えてくれます。

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 いっとう最初に提案したA案の形が、実際の建物の雰囲気に一番近い、不思議。

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 直感は普段の心がけによって育まれるものなのかもしれません。

なるべくしてなる。そんな住まい設計の醍醐味。これからも楽しんでつくります。

 どうもアリガト。

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住まい設計の順序2

 六つのパターンを考えてきて、もう一度基本に返って設計を練る鵠沼の家です。

ひとつひとつ要望から始まって、こうすればこれが成り立つかな、これだと無理があるな。

と、自問自答しながら手を動かして考えた末、もう一度三つの案を提案します。

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 左のG案はシンプルを基本に受け継ぎ敷地の角に合わせたホームベース形。

中央H案は逆T字形に空間を素直に分節して連結した形。

右のI案はL字の配置を基本に空間を広げた形。

 基本設計の元となる案がここで出揃ったことになります。

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 G案は、打ち合わせに先立ってイメージプラン集のようなものをお渡しした中に、

ある離れのプランがありまして、それを元に考えてみましょうという話から出来ました。

 二軒目の家づくりは、このころになるとクライアントの方もこちらの手の内や考え方を

ご理解していただいて、自らこういうアイデアはどうでしょう?という風になっています。

クライアントと設計者の二人三脚、意志の疎通が出来上がって形に結びつくことに。

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 H案はこれも基本設計の基礎になるプランとなります。

それぞれの空間は普段は一体のワンルームとして、建具で仕切ることによって

別々のことが出来るような融通性をもった案になります。

このかたちと台形が組み合わさって基本設計のプランが出来上がります。

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 I案は基本の要望をもう一度満たしてみて、どのようなメリットデメリットが浮かんで

くるのか、空間のつながりを再構成してみた案です。

この台形の考え方そのものは基本設計に残るイメージになりましたが、

全体のかたちとして、おおざっぱに角々し過ぎているとの結論になりました。

 この時点で、一つのかたちにまとめられる気配が出てきます。

クライアントの方々も、ほぼ可能性は検討しつくしたように思ってくださって合意して

基本設計のプランをつくることになります。

Plan

 J案を基本設計のプランとして提案し、まとめられたのがこのK案のプランです。

具体的なかたちとして検討した10のプランを下敷きにしてまとまったことになります。

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 G案の屋根の架け方、H案のプラン、I案の台形のかたちが合わさって出来た案です。

この時点で一度見積もりをとって、予算をみてみることに。多分、予算オーバーする

であろう規模になったので、並行して縮小する部分の検討を始めてみます。

 実現したかたちがシンプルに戻るのも、可能性を考えてたくさんの検討を重ねた結果。

ちいさな家だからこそ、ここまで考えられたことだと思います。

住まい設計の順序

 家づくり、住まいの設計には通るべき順序があります。現場で建設工事が始まるまで、

最初の打ち合せでお聞きした夢や要望、言葉にならない希望を汲み取ってする順序が。

 いつもなるべく選択肢を用意して、夢の妨げにならないように提案をするようにします。

「これしかない!」と一つだけ出す人もいるようですが、その案が一番いいとクライアント

が分かる保障はありませんから。一刀両断で決められるほど住まいをかたちにするのは

単純な作業ではなく、からみあうパズルを根気よく解いて答えを出すものです。

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 鵠沼の家、ありがたいことに二軒目の設計依頼をいただき、張り切って始めた設計。

手を動かし浮かんできたおぼろげな三つの方向性を、要望に沿ってかたちにしたABC。

それぞれの案には、予算や使い方、もちろんそれに応じたかたちに特徴があります。

 左のA案はオーソドックス。真ん中B案はL字形の大きめ案。右のC案は広がりを

テーマにした目立つ案。A案は普段着のシンプルを、B案はゆとりをもった重ね着に、

C案はかたちを追った服。判り易く言うとそんなイメージになります。

 三つの提案をひとつずつ、メリット、デメリット、それぞれの特徴やなぜこのかたちに

したか、丁寧に説明していき、結果C案が一番気に入っていただきました。

 ただ、まだ決め手というより、検討すべき「まだ見ぬ方向性」はあるので、次の三案を

また探ることにして、打ち合わせを進めることになります。

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 さて、基本形の方向は同じですが、検討の精度を上げてまとまりをつけていきます。

左のD案はシンプルの追求をして三間角の片流れ屋根、中央E案はL字をコンパクトに

五角形にまとめた案、そして右のF案は三角形にこだわって広がりを持つ案。

 設計者がここまで考えてくるのと同じように、クライアントの方々も家族で議論され

すこしずつ方向性が見えてきます。ここではまだ「取捨選択」をするというより、その前に

可能性を出し尽くす。そんな気持ちを持って、また次の打ち合わせに進みます。

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 D案は、今振り返ると実現した案にもっとも近い案です。

土間とそこから上がった間がある基本形が、実際に建った家まで引き継がれることに。

後から振り返ると、ここに全ての始まりはあったのかなとも思います。

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 E案は、この時に探っていた店舗としての使われ方も検討した選択肢の一つです。

ちいさなカフェにもなりうる「楽しさ」さえ内包できていますね。

こういう案も、いつか実現できたらサイコー!だと思います。

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 F案は、気に入っていただいた三角形。なんとか良いものにしようとした案です。

ただ、当初意図していた広がりは、すこし大きな「かたち」に無理があって、

望まれている暮らしとの ずれ を感じるようになってきた案です。

 さて、ここまで来るうちにあーでもないこーでもないとスケッチしては消えていった無数の

かたちたち。その生み出されなかったかたちの多さが、結局は最終形のエッセンスに

なっていることは確かです。出来上がったかたちのシンプルさ。は、たくさんの検討が

なされた後だから納得していただいて住まいのかたちになったと言えます。

 次回は、この続きを。

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住まいを巡る一年

 とても鮮やかな朝焼けで始まる2012.12.12、イッチニが並ぶ師走の一日です。

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 昨年末に引渡しをした鵠沼の家、一年点検にでかけてきます。

周囲のお屋敷が相続でどんどん分割されてゆき、鵠沼らしい静かな落ち着きが

失われつつあります。平屋の家、貴重な存在としてかえって際立って見えます。

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 半年ぶりに伺った家。植栽もすこしずつ馴染んで、よい感じになっています。

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 大きな不具合はなく、お住まいのご夫婦と棟梁としばし談笑。

一年という節目。これからが本当の暮らしのスタートといったところです。

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 鵠沼の家、母屋の方も外壁の唐松が、いい歳の重ね方をしています。

雨風に洗われて木目が浮かび上がって、自然なエイジング。うづくり仕上げになってます。

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 年明けの来年にすこし手直しをすることにして、お暇します。

江ノ電から見る海の輝きが、「がんばったね」と誉めてくれているようです。

緑のチカラ

 先日、設計監理の報告をかねて、久しぶりに鵠沼の家を訪ねました。

そこここに、木々や草花が植えられて、だんだんと住まいのお庭らしくなっています。

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 鵠沼の家並みが続く場所は、風致地区の指定があって、緑化が義務付けられています。

どこまで、その通り植えられたお宅があるかは、はなはだ怪しいところですが。

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 色の白さは七難隠す、ではないけれども、緑のチカラはとても強いもの。

うるおいに満ちた環境には、決して欠かせないものですね。

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 木々や草花が、人々とともに成長する、鵠沼の家づくり。

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 これからも、しっかりと見守っていきたいと思います。

家をつくること

 五月晴れを期待していたものの、やっぱり雨降り。一日まるまる現場の日です。

杉並の家づくりも終盤。新しいバルコニー、下地が組み終わります。

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 玄関の庇を兼ねて、洗濯場から外に出られる場所。

なにかと便利に使えると思います。

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 鉄骨の跳ねだしを中心に、互い違いに組まれた下地の木組み。

図面には、大体の感じを描いておいて、あとは現場でのアドリブ。

こういうものは、棟梁にまかせておけば、ひとりでに?出来上がります。

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 木組みの加工は、ほぞとほぞ穴を組み合わせて、凹凸に組んであります。

組みあがると見えなくなってしまうけれど、丈夫に長持ちさせるための仕事。

ひとつひとつ、さまざまな大きさの材料が、適材適所に納められていきます。

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 新しくつけられた窓も、メインは木製の枠。アルミサッシはあくまで脇役です。

ここまで、およそ五ヶ月。リフォームとはいえ、かなりの手間と時間の集積で、

ひとつの家が生まれ変わります。

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 午後は、鵠沼の家へ打ち合わせ。すこしずつ木々が植えられて、アプローチが

豊かな風景に変わっています。だんだんと、住まいらしくなってうれしい。

  あらためて、家づくりとは何か。原点を見つめなおす機会をいただきます。

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 庭のテーブルの前、ソロの木が植えられていました。

大きく育って、夏の木陰を創り出してくれますように。

家づくりの一年

 住まいを設計して家が出来上がるまで、おおよそ一年はかかります。

建売住宅では3~4ヶ月で済んでしまいますが、私たちが関わる方々の家は

設計半年工事半年がいいところです。

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 住まい手の要望を聞き、場所の空気を読み、かたちを考える。

繰り返し繰り返しして半年すると、設計図というかたちになります。

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 鵠沼の家は、予算が限られていてコストの調整に時間がかかり

設計9ヶ月工事3ヶ月の配分になりました。

 やっぱり、一年はかかるものなんだ。と、今更ながら思います。

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 住まいは人が暮らし始めると、生きだすもの。

人々の息遣いと一緒に、建物も呼吸し始めます。

漆喰や木は、実際に調湿するから、呼吸をしているのです。

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 土間の白洲土のタタキ。早くもいい風合いになってきました。

小さくても、土間と和室の切り替えが出来て、クライアントも

気に入ってくださり、めでたしめでたしです。

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 人の個性は住まいの彩り。お互いが反映しあって、

その家だけの風合いを持ち始めます。

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 アトリエの大きな硝子窓に黒板が入りました。

ゼミの講義もされるし、外せば公園が見えるし。

 一石二鳥、自画自賛。たいへんよくできました。

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 みぞれまじりの空も、帰る頃には明るくなりました。

江ノ電の車窓から、海を眺めて帰途に着きます。よい、一年を。 

居心地の在り処

 鴨長明が暮らした方丈は、四畳半の大きさでした。およそ3メートル角の住まい。

人ひとり座って半畳寝て一畳。雨露がしのげて、安らかに眠ることが出来れば、案外

それで日本人は満足出来る生活をしてきたようです。

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 時は移り、2012年になろうとする頃、家は断熱材で包まって隙間風とは無縁になって

それだけで、昔よりずいぶん居心地はよくなっているはずです。

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 この家は天井裏を作らず、屋根の野地(のじ)板がそのまま仕上げになります。

この上には外断熱で二重の断熱材がのり、温度変化のすくない構造になっています。

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 和室も同じ勾配のついた斜めの天井で、床が畳で上がっているから、低い方は

手が届く高さ。障子の高さは五尺七寸、1メートル73センチです。

現代は2メートルのドアが一般的になりましたが、畳の上に座ると、その高さでは

落ち着かないものです。居心地のよさは、適度な高さの寸法や広さが生み出すもの。

 やたらと高い天井や、よりどころのない広さは、落ち着きのない無節操を生み出す。

それを念頭におけば、設計もヒューマンスケールに落ち着きます。

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 高さを押さえれば、おのずと視線は外の景色に向かいます。お隣の南の庭を借景に

江ノ電の行き交う線路まで、すーっと視線が抜けて広がる贅沢。

市街地でも、窓の位置次第で、落ち着く眺めを得られるものです。

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 居心地とは漠然とした感覚のようですが、心地よい空間は的確な寸法や比例という

バランスから生まれるものです。時代は移り変わっても、人々にとっての居心地は

そう簡単に変わらないはず。古の建物が居心地よく感じられるように、

21世紀の住まいもそうありたいものです。

設計の原点

 今年はじめの一月末から設計を始めた鵠沼の家が完成し、無事引渡しを終えました。

この上ないシンプルな平屋の住まい。敷地の上にちょこんと建っている佇まいです。

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 旗ざお型の敷地の奥に、こじんまりと出来上がりました。

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 日当たりのよい庭に向かって、長く深い軒を出して片流れの屋根をかけます。

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 東の窓の、20メートル先には、小さな公園の緑へと視線が伸びます。

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 シンプルな家には、こんなコンパクトで使い易いキッチンがよく似合います。

水廻りも必要最小限に、かつ小ぎれいにつくりました。

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 小さな家とはいえ、のべ110日730時間の設計と工事監理を経ています。

小さいからこそ、なにがそこにあるべきか、ほんとうに要るものはなにか。ひとつひとつの

事柄を熟考し、吟味していくことで現われる住まいの原点を見つめつつ、じっくり創る。

 窓ひとつとっても、そこにあるべきか、あるとすればどんな大きさで、外にはどんな眺め

を見るのか。ひとつひとつ考え抜くと、自ずからかたちが見えてきます。

 人が住まう場所。本当に必要なものだけで作られた住まいは、そこに暮らす家族の

立ち居振る舞いを、支えより輝かせるものだということ。

そのことを、気付かせてくれました。

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 役所の検査を終え、別の仕事で事務所に飛んで帰り、書類をやっつけてまた戻ると。

冬の午後の陽射しが、いぐさの薫る畳の上に差し込んでいました。

上框に腰掛ながら、ひとりきりの時間を過ごしつつ「設計やっててよかったな」と

ココロでつぶやく年末です。

 

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